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2022.9.1 「2021年M&E論文賞選考委員会委員がどうしても紹介したかった推し論文」に選ばれる..(注:論文賞ではない)

所属学会である「日本微生物生態学会」の国際誌「Microbes and Environments」の36巻に我々のグループが今最も力を入れている研究成果を発表しましたが,なんとそれが「M&E論文賞選考委員」の目にとまったようです...詳細はこちら
 
推測するに,次点の次点くらいだけど個人的には好きだから紹介してあげる,ということで選考委員が評価コメントを書いてくれたようです.コメントをくださったのは,高井さんと砂村さんという我々の研究分野を引っ張ってくださるお二人からなので(身内じゃないか,というツッコミは禁物),個人的にはこれ以上ない激励の言葉となりました.詳細は原文を見て頂くのが一番ですが,我々の研究のことをよくよく把握してくれていて感無量です.
 
「失われた古の武器で狩りに出陣しドラゴンを狩ってしまった」
ものすごいインパクトのある例えをしてくれていますが,確かにそうなんです.発端は,2016年の九大ポスドク時代,同じキャンパスの理学部にいた石橋先生から「秋田に一緒に行かない?」と軽いお誘いを受けました.当時,後ろ盾をなくし(K教授が私を置き去りに別の大学に逃亡?)専任義務ガチガチ雁字搦めでフィールド調査がなかなか難しい状況にあったのですが,なんとか上手いこと言い訳調整をすることができて久しぶりの出張となりました.現地に到着すると,プシューと見るからに沸騰している熱水が止めどなく噴き出している様子を見て,「いや,これはそんなに面白い微生物はいないでしょ.てかヤケド心配」と思いました.ラボに持ち帰って顕微鏡でのぞくと,そこそこの数(1mL中に数万匹)がいたので,お決まりの遺伝子解析に.この解析は「失われた古の武器」ではなく,みんながよく使う次世代シーケンサーを使ったです.結果は,一見すると温泉にいそうなものばかりで,それ以外はデータベースと照合してもよく分からんやつというものでした.そのよく分からんやつの分からなさ具合がひどくて,バクテリアかアーキアなのかも決められないという悩ましいものでした.また,10%近くとそこそこの相対量存在しているようです.この時点で,ガン無視することも十分ありえたのですが,どうにもこうにも引っかかるので,真面目に配列一つ一つを抽出し系統樹を作成してみました.すると,やはりどう解釈してよいか分からないところに例のやつら(OYS group)が集結します.喜びよりも気持ち悪さや不安(解析のやり方間違えた?)に駆られるのですが,次の職探しやらなんやらで忙しく,そのまま放置となってしまいました.その後,北九大への着任が決まり,研究室配属学生のテーマとして,この続きをやらせることとしました.卒業研究に取り組むわけですから,基礎中の基礎,いにしえの武器,PCR&クローニングからやってみなさいと.どうもアーキアっぽいから特異的プライマーを何個か使えばこれまでに得られたNGSの配列よりも長いものを増やせると思うよと.しかし,待てども待てども学生Aから報告がありません.痺れを切らして尋ねると「全部の組み合わせで増幅に失敗しました.泣」...いやいや,そんなことある?ちゃんとポリメラーゼ入れた?ポジコン入れてないでしょ? 結局,何度やってもらっても上手くいかず,残りのDNAがごくわずかに..そこで,2019年に秋田を再訪することにしました.これまでの実験を追試をさせると,やはりOYS groupの短い配列なら増幅されるが,遺伝子全長を得ることはできません.その後,学生Aの奮闘もあり,長さとしては半分にも満たないもののようやく上手くいく組み合わせが見つかり,クローニング法で塩基配列を決定しました.いにしえの方法ではありますが,私がこれまでさんざん使ってきたなじみの武器ですから,ここでようやく不安から一部解放され,自信を取り戻します.今思うに,別の方法ではその不安は拭えなかったかもしれません.さあ,現代の武器を使ってドラゴンをとっちめよう,となるわけですが,どこかのグループが同じ温泉を調査しているという噂を聞きつけ,とにかく早く発表することが先決と,それまでの成果をまとめ,M&E誌に送りつけ,掲載に至ります.この研究に限ったことではありませんが,さまざまな背景や苦労話があるので,審査委員をはじめ多くの方に興味を持って頂けるのは本当に嬉しいことと思いました.

もちろん,研究は続いています.コメントにもあった「MAG作成に基づく機能推定やリボソームタンパク配列を用いた分類」には学生Yや学生Uとともども日々奮闘しているところです.また「FISHによる細胞の存在形態や存在量の解明」は,高温試料に特有の高バックグラウンドシグナルに苦しみながら学生Gが挑戦しています.「生物地理」については学生Yが川に落ちながらもサンプリングした甲斐があって,ある程度まとまった情報を集められています.できるだけ早く,我々だって流行の武器を使える知能的なホモサピエンスであることを証明し,ドラゴンことOYS groupの正体に近付きたいと思います.
 

2017.9.11 共同プレスリリース 「光合成由来のエネルギー源に依存しない地底生態系の解明に成功」

東大の鈴木庸平さんを中心とする研究グループに参加させてもらっていましたが,そのグループの成果がISME Journal(Nature Publishing Group)で出版されました!詳細はこちら.
 
深海メタハイ調査ずっと研究対象としてきた嫌気的メタン酸化アーキアが,まさか足下(花崗岩帯の地下環境)にいたなんて...


2016.10.11 プレスリリース 「沖縄熱水海底下生命圏掘削により熱水孔下生命圏の限界を発見」

JAMSTECよりプレスリリースを行いました詳細はこちら.

運悪くノーベル賞weekとバッティングしてしまい,どこも取り扱ってくれないのではと不安でしたが,6社の新聞やwebなどで紹介して頂きました.特にDiscoverで扱ってくれたことに関しては,世界に発信できたことを実感できて非常に嬉しく思います.今後もこういう研究が継続できるよう頑張っていきます!


10/11 時事通信  「微生物生息域に温度影響=沖縄北部の海底―九州大など」
10/12 日刊工業新聞 「海底の熱水域で微生物が生息 海洋機構など実証」朝刊29面
10/17 日刊水産経済新聞 「微生物生息域 水温の影響が」 「沖縄北部の海底 九州大など発表」朝刊2面
10/21 科学新聞 「熱水噴出孔付近の生命圏限界を発見.海洋機構が世界初の成果」7面
11/8 日経産業新聞 「海洋機構と九大 熱水域を調査 超好熱菌から海底の過去」
11/29 Discover Magazine 「The Extremo Files / The Limits of Life Beneath Deep Sea Hydrothermal Vents」