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地球惑星生命フロンティアにおける,
1. 難培養性極限環境微生物の生理・生態学
2. 生物地球化学的物質循環

我々は地球生命圏の分布・構成・機能・存在様式・反応機構に関する新しい知見を得ることを目標に研究を進めています.具体的には,微生物(特に原核生物)を研究対象とし,自然界における様々な環境の生態学研究を進めています.特に,「極限環境」と呼ばれる,人類からすれば生息不可能と見なされるような環境に興味を持っています.これまでに以下の生命圏を対象に生命地球科学的課題を追求してきました.
(1)熱水活動域周辺の高温環境(陸上温泉が主だが,機会があれば海底熱水も)
(2)ちょっと変わった湖沼の嫌気環境
(3)鉱山関係(酸性鉱山廃水や石炭)
(4)昆虫の腸内微生物
(5)次世代エネルギー資源「メタンハイドレート」の産出する深海底堆積物
(6)地上や海底から数kmに渡る地下圏

研究メソッドは,分子生物学と地球科学を両輪としたスタイルを意識しています.
 調査のために国内外での調査を進めています.過去には,深部掘削船「ちきゅう」や有人潜水艇「しんかい6500」に乗船したこともあります.

 配属学生のテーマ例


温泉中の未知微生物

いい湯だなー.と思えないほどに高温の温泉にも微生物が生息しています.近年では,90℃以上の高温環境に未知のアーキアが生息することを発見しました.

温泉メタンの起源は?

いい湯だなー.と思えるとある温泉には,メタン生成アーキアが大量に生息していました.メタン生成アーキアが優占する温泉は日本の各地にも多数存在することが知られていますが,その温泉は,どのタイプにも当てはまらない面白いいくつかの特徴を有しています.地球化学の視点も含めながら多角的に地下生物圏の存在様式の解明に取り組んでいます.

メタンを食らうアーキア

温室効果ガスであるメタンを嫌気環境で分解することのできる微生物として嫌気的メタン酸化アーキア (ANME ) が知られています.ANMEは海洋にのみ存在すると考えられていましたが,近年では陸水環境にも多くの報告例があります.我々も鉄に富む堆積物にこのグループに近縁な系統が多く存在することを見つけており,様々な解析を進めています.

食材性昆虫の共生微生物

九州大学大学院比較社会文化研究院との共同研究で,腐朽材食性の甲虫類,特にコガネムシ上科を対象とした腸内微生物の解析にも取りかかりました.腐朽段階に応じた棲み分けを見せる昆虫の腸内微生物を活用すれば,木材バイオマスの生物学的変換の新しい手法開発に繋がるかもしれません.

汚染環境の微生物修復

微生物の代謝活動を利用した生物学的環境修復(バイオレメディエーション)にも興味を持っています. 酸性鉱山廃水を対象に調査を進めています.



メタンの生成と消費に関わる海底下生命圏

深海底に眠るメタンハイドレート

メタン生成アーキア

海底堆積物を取得するコアラー日本周辺に存在するガスハイドレートは次世代エネルギー資源として注目を浴びていますが,その成因の1つにメタン菌(メタン生成アーキア)の関与が考えられています.メタン菌を含めた海底下生命圏の分布,機能,活性に関する研究の進展に貢献すべく,研究を進めています.近年の成果としては,メタン生成反応における重要な基質の一つであるメタノールが日本海の深部堆積物中で高濃度で存在することを発見しています.メタノールの海底下環境での生成・消費プロセスがメタン生成アーキアの活動に深く関与すると考え,現在研究を進めています.

嫌気的メタン酸化アーキア(ANME)

嫌気的メタン酸化アーキア特有の細胞凝集体メタンは二酸化炭素の約20倍の温室効果があり,地球史を通じて気候変動に大きな影響を与えてきたと考えられています.海底堆積物中のメタンは嫌気的メタン酸化アーキア(ANME)によって生物学的に除去されます.すなわち,メタン放出のバリアーとしての役目を微生物が担っていることになります.近年,我々は新しいタイプのANMEーBacteria共生体も発見しました.これら微生物の活動が海洋環境におけるメタンシンクとして果たす役割を明らかにすることで,地球規模でのメタン循環の解明に迫りたいと考えています.


微生物によるメタン生成・分解活性には,ラジオアイソトープトレーサーと用いた超高感度計測を実施しています.研究室には,国内に数台しか存在しない放射能測定装置を配備しています.

海底下生命圏

海底では深さ1,000mの深部堆積物中にも1cm3あたり約1,000,000細胞の微生物が存在しています.これらの多くは「微生物ダークマター」と呼ばれる未培養性微生物です.こうした未知生命の実態解明も研究対象です.我々は,日本海のメタンハイドレートの分布する堆積環境では,未培養系統群が優占することを明らかにしています.これはカスカディアマージンなど東太平洋も含めた汎世界的な傾向と言えそうです.こうした微生物生態系の分布パターンはメタンハイドレートの分布を示す一つの指標になるかもしれません.
 また,微生物を上回る数でウィルスも存在することが分かっており,これについても研究対象としています.






極限環境

深海熱水噴出孔

噴出熱水近傍の微生物生態系

深海熱水活動域には,周辺海洋環境とは明らかに異なる特異的な微生物群集が見られます.その理由は,熱水から供給される還元的無機化学物質が特定の化学合成独立栄養微生物や超好熱性微生物の生育を助長するからです.すなわち,熱水活動域には特有の物理・化学条件に規定された「地球内部エネルギーに強く依存した生態系」が存在しています.この生態系の成り立ちや機能,分布,活性,物質循環への寄与を明らかにすべく,研究に取り組んでいます.
 これまでに,日本近海(沖縄トラフやマリアナトラフ)の海底熱水や,世界最深の熱水噴出孔から噴出する世界最高温度の熱水(>400℃),さらに,熱水から供給される高濃度のCO2により酸性化が進んだ環境などの極限環境の調査に参加させてもらいました.
 

始原的生態系の巣「熱水孔下生命圏」

熱水噴出孔近傍の微生物生態系は、熱水孔直下に広がる超好熱性微生物の住処から、一部の微生物が熱水の流れに乗って海底にもたらされたものであると仮設立てられています.この証明には科学掘削による直接的なアプローチが手っ取り早いのですが,掘削における技術的な問題などもあり,直接的な証明に到った研究例はありません.私が参加した統合国際深海掘削計画(IODP)第331次研究航海では,この科学命題に答えるべく,熱水孔下生命圏の証明を目指した研究が実施されました.この調査航海からは,熱水孔下環境における生命の生息限界を言及した論文など複数の成果が出ており,熱水孔下生命圏の実態解明に近づきつつあります.こうした熱水孔下生命圏の調査は海底熱水鉱床研究にも役立つと期待しています.実際,スペインの研究グループは熱水鉱床の一部の硫化鉱物の生成に微生物が関与すると考えています.熱水孔下生命圏のイメージ

暗黒かつ高圧の深海

マリアナ海溝など世界最深の環境にも多くの生命が存在しています.超高感度活性測定法を駆使して,深海環境に生息する生命の理解を目指しています. 

陸上地下圏(地下生物圏)

海底のみならず,陸上の地下にも未培養性微生物が数多く存在しています.特に,電子の授受を積極的に行っていると考えられる微生物(共生系)に興味を持って研究に取りかかっています.




研究歴

  • 2004 ビリヤード場バイト漬け生活から卒業し,本当の卒業を目指し,卒研配属先で実験をスタート.当時,ポスドクをしていた先輩Sさんに実験の手ほどきを受ける.Sさんは自称アル中で指先がプルプルと震えているにも関わらず,実験がとてつもなく上手かった.酔っ払った彼に,お酒の買い出しを命じられたり,ときにはゴミ箱を投げつけられたりしたけれど,自分の中での理想の先輩は断トツSさんである.
  • 2005 研究テーマを変え,浦辺徹郎教授,砂村倫成助教の下で熱水活動域に生息する微生物の生態学的調査を始める.お二人には唐突に研究の指導をお願いすることになったが,嫌な顔一つせずに受け入れてくださいました.東京方面には足を向けて寝られません..
  • 2007 長野県小谷村の地熱水中に生息する微生物調査に参加した.海洋調査以外のフィールドの楽しさを痛感.
  • 2008 SUMSUN (Dr. Gregor Rehder) ドイツの研究調査船RV SONNEと無人潜水艇QUEST4000を使用した液体二酸化炭素胚胎環境での生命地球化学的調査.JAMSTEC稲垣博士に誘われ参加.英語でコミュニケーションをとれずに苦しんだ一ヶ月間.
  • 2008 日本海表層型ガスハイドレートコンソーシアム(明治大学 松本良教授)に参加.メタンハイドレート研究を開始.
  • 2008 平成20年度文部科学省新学術領域研究「海底下の大河」(東京大学浦辺徹郎教授).ポスドクとしてもお世話になりました.
  • 2010 統合国際深海掘削計画(IODP) 第331次航海.「ちきゅう」を用いた海底熱水系の掘削.充実し,本当に勉強になった一ヶ月の調査航海であった.アメリカ,ドイツ,フランスの研究者と共同研究を実施.航海中は自分が未熟であることを毎日痛感.後に,この航海のコチーフであった高井研PDに雇用してもらう.
  • 2011 谷篤史准教授(神戸大学),鈴木庸平准教授(東京大学),八久保晶弘教授(北見工業大学)と科研費挑戦的萌芽研究を実施.船上の自由な発想から生まれた共同研究なので,愛着がひとしお.通称マメプロ.
  • 2013 海洋研究開発機構 世界一周航海QUELLE2013に参加し,カリブ海ミッドケイマンライズでしんかい6500に乗船.チャンスをくれた高井首席に感謝.
  • 2014 九州大学大学院地球社会統合科学府 文部科学省特別経費「統合的学際教育を基盤とする高度グローバル人材養成プロジェクト」 .教育とは,教育をする側・受ける側のスタンスとは,有効な教育のための手段とは(お金と時間の使い方),大学の役割とは..教育現場での様々な問題を目の当たりにし,ひたすら悩む.
  • 2016 初のプレスリリース.可も無く不可も無くという感じで終了してしまった.要するに不完全燃焼.リベンジできるように更なる成果を出していきたい.
  • 2017 北九大の新しい環境で研究スタート.新しいテーマも見つけなくては.




野外調査歴

 乗船経験.  国内外で実施された航海調査.

  1. 有人潜水艇しんかい6500へも乗船しました!2005/9/22-2005/10/7 NT05-16;R/Vなつしま;ROV Hyper-Dolphin; 水曜海山,南日吉海山; 横須賀-グアム
  2. 2007/6/18-2007/6/26  NT07-11;R/Vなつしま;ROV Hyper-Dolphin ;伊平屋北、南奄西;那覇-那覇
  3. 2007/7/3-2007/7/7  NT07-13 R/Vなつしま;ROV Hyper-Dolphin ;伊平屋北、南奄西;那覇-名瀬
  4. 2008/2/19-2008/3/26  SO196;R/V Sonne(ドイツの研究調査船);ROV Quest 4000;第四与那国海丘、鳩間海丘;グアムーマニラ
  5. 2008/7/25-2008/8/1 UT08;R/V海鷹丸;ピストンコア;上越海盆,海鷹海脚および上越海,北海道西方奥尻島、南後志海丘周辺;富山-小樽
  6. 2009/7/24-2009/7/29 UT09;R/V海鷹丸;ピストンコア;上越海盆(海鷹海脚および上越海丘)、北海道西方奥尻島;富山ー小樽
  7. 2009/8/24-2009/8/31 KT09-16; R/V淡青丸;CTD-Niskin;沖縄トラフ(第四与那国海丘、鳩間海丘、伊是名海丘、他);石垣-那覇
  8. 2010/4/13-2010/4/18 NT10-16;R/Vなつしま;ROV Hyper-Dolphin;第四与那国海丘;石垣-那覇
  9. 2010/7/15-2010/7/26 MD179;R/V Marion Dufresne(フランスの研究調査船);日本海(海鷹海脚、上越海丘、北海道西方奥尻島; 直江津-小樽
  10. 2010/8/31-2010/10/5 IODP Exp. 331;科学掘削船ちきゅう;沖縄伊平屋北熱水活動域;清水-中城;
  11. 2011/5/31-2011/6/9 TAIGA11;第二白嶺丸;BMS;中部沖縄トラフ(伊平屋北海丘、伊是名海穴:JADE site、伊是名海穴:HAKUREI site);浦添-浦添
  12. 2011/9/12-2011/9/17 NT11-18;R/Vなつしま;ROV Hyper-Dolphin;多良間海丘;石垣-石垣
  13. 2011/12/8-2011/12/16 KR11-11;R/Vかいれい;ABISMO;小笠原海溝;横須賀-横須賀
  14. 2012/11/30-2012/12/7 KR12-19;R/Vかいれい;ABISMO;日本海溝、小笠原海溝;横須賀ー横須賀
  15. 2013/4/2-2013/4/10 NT13-07;R/Vなつしま;ROV Hyper-Dolphin;相模湾初島沖;横須賀-横須賀
  16. 2013/6/16-2013/7/3 YK13-07;R/Vよこすか;しんかい6500;カリブ海ミッドケイマンライズ ;プエルトリコ-パナマ
  17. 2013/11/7-2013/11/19 NT13-22;R/Vなつしま;ROV Hyper-Dolphin;沖縄伊平屋北;横須賀-那覇
  18. 2014/1/6-2014/1/20 KR14-01;R/Vかいれい;ABISMO;マリアナ海溝チャレンジャーディープ;横須賀-サイパン
  19. 2014/7/22-2014/7/28 UT14;R/V海鷹丸;ピストンコア; 隠岐沖;博多-金沢

陸上フィールド調査.  地熱水,温泉,洞窟など

Blue Pool@Dolok Tingi Raja2007/4/11-13 長野県小谷村
2014/8月 鹿児島,大分
2014/9/20-24 インドネシア,スマトラ島,Sipoholon & Dolok Tingi Raja
2016/8/16-18 広島
2016/10/25-29 秋田県湯沢市小安峡など
2017- 九州(阿蘇,九重など)の温泉や冷泉,湖沼,石炭などいろいろ,なんでも